朗報。髪の毛は培養して増やして植え戻す時代が近い?
日本語ソースの大手の時事通信社だと科学系の速報記事は内容なく薄っぺらいことがおおいですが、このサイエンスデイリーという科学関連のニュース速報サイトは論文が出る前から出版社から情報を得て、事前に記事を書いているっぽく速報性も高いのに、程よく突っ込みつつまとまっている短い英文記事が便利です。先日、頭髪の再生に関する興味深い記事をサイエンスデイリー見つけましたので紹介です。
今までの毛生え薬は「脱毛に対抗する薬」
髪の毛の皮膚の内部に隠れた根本部分を包み込む”毛包”という組織があります(下図参照)。毛が抜けると、毛包は新たな髪の毛を作ります。
今までの方法では、「毛包から毛が抜けにくくする」か、「すでにある毛の成長を促す」かという消極的な方法しかなかった状況なので、「毛生え薬」といっても、抜け毛を減らして、髪を太く長くして見た目で増えたようにしてたわけで、本当に新しい毛が生えやすくなったわけではないんですね。
日本ではリアップ、海外ではロゲインとして知られているミノキシジル系の育毛剤についてもウィキペディアをみると、「毛乳頭細胞や毛母細胞の活性化」がメカニズムと言われてるようですが、ようは血行がよくなっていろいろ間接的に毛が生えやすい状況ができるかもしれないが、基本的には「脱毛に対抗する薬」なようですね。
プロペシアなどのフィナステリド系も男性ホルモンの代謝物が原因で起こる過剰な皮脂の分泌によって毛穴が塞るのを防ぐのが基本的な作用機序でやはり「脱毛に対抗する薬」。まあ、脱毛には本当に効くらしいが。
髪の毛は自分の毛包を培養・移植して自毛を生やす時代がやってくる?
しかし、この新しい方法は「毛乳頭細胞を培養して毛包を増やし、毛の少ないところに移植することで、新しい髪の毛が生えてくる」という技術で、とても画期的です。もちろん世界初。慶応大学のグループがiPS細胞をつかって”部分的”に毛包を再生できたというニュースがありましたが、こちらは完全に再生してしかも髪の毛が生えてきたということでものすごい伸展です。
毛包(hair follicles)の図
研究を行ったのはColumbia University Medical Center(コロンビア大医療センター?)の研究チームで、脱毛症の患者さんの頭皮から毛乳頭細胞(dermal papilla cells)を採取して、通常の細胞培養ではなく組織培養法を用いて、毛の生えてくる毛包(hair follicles、上図参照)という組織まで分化させることに成功、これをネズミの背中の皮膚に植えたところ、ヒトの髪の毛が生えてきたという結果を得たのだそうです。
つまり、ネズミの背中に新しいヒトの毛を生やすことができたという段階で、ヒトに植え戻すにはきっと臨床試験の許可がいるのでしょうから、これからですね。それに、毛の色や太さ、硬さ、まっすぐ、縮れ具合などのテクスチャを制御する技術もないので、同じような毛が生えてくる保証もありません。
しかしとりあえず生やすだけなら、今回の方法の場合、ネズミでうまくいった方法がヒトだとうまくいかない理由も特に思いつかないので、技術的な障害はほぼ取り除かれたように見えます。
今までも、ネズミの毛乳頭細胞ならば普通にシャーレ上で細胞培養すると、勝手に細胞が凝集して、いい感じに細胞外マトリックスを形成して、毛包へと分化するらしく、この毛包を皮膚に移植して毛を生やすのは簡単だったらしいです。しかし、ヒト由来の毛乳頭細胞の場合は、同じ細胞培養法では凝集が起こらず、毛包にも分化せずに普通の表皮細胞になってしまうのが問題だったようです。今回は、細胞をバラバラにせずに、3次元構造を保った組織片として組織培養して細胞外マトリックスを保存することで、分化を促したというところがミソらしいです。成長因子とかも必要なかったそうです。
ということは、ヒト由来の毛乳頭細胞を細胞培養しておいて、培養液に加えて凝集が起こるような化学物質を探せば、毛包の分化を促進して、毛が生えてくる薬が作れるかもしれない。できたら儲かるな。ネズミで凝集が起きて、ヒトで起きない理由がわかれば良い訳で、この辺りの基礎研究が進むと自然に化学物質の絞り込も進むだろう。自分としても納税者として、文部科学省にこの分野の基礎研究に予算を付けるようにお願いしたいところ。
まあ自分の分野外なので、いろいろ間違ってるかもしれません。コメント頂ければ幸いです。興味を持った方は、元のPNASの論文「Microenvironmental reprogramming by three-dimensional culture enables dermal papilla cells to induce de novo human hair follicle growth」をご覧ください。
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