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2014年9月14日 (日)

ホジキン・ハクスレーモデルが否定される?

Medical News TodayのRSSフィードに流れてきた記事「Study confirms that nerve signals are sound pulses」というのが、なんだか衝撃的な内容だった(ホントなら)。元論文が、Physical Review Xとかいう2011年にできたオープンアクセスかつ、物流系の雑誌なのでちょっと眉唾な感じがあるので判断が難しい。

デンマークのコペンハーゲン大学のThomas Heimburgという人のグループが2005年のPNASの論文で提唱した「活動電位の伝達はソリトン」であるという仮説があるのだそうで、それによると活動電位は音波が伝達されるように細胞膜が硬くなったり柔らかくなったりすることで伝達するのだそうです。

耳を疑うような大胆な仮説ですね。どの教科書にものっている基本中の基本であるHodgkin and Huxleyの説を真っ向から否定しています。

根拠となっていたのは、1958年の論文で活動電位が伝達する過程での熱の発生を測定した結果なんだそうで、Hodgkin and Huxleyの説が正しい場合活動電位にともなって熱が発生するはずが、測定結果では伝達にともなって発生した熱がが、すぐさま吸収され、正味ではゼロになるかららしいです。

これを説明するには、活動電位はpropagating electromechanical pulse(電気機械的パルス?)であると考えるとよく説明できるらしく、彼らの2005年のPNASの論文では、細胞膜の脂質は、体温に近い温度でchain melting transitions (位相転換?)を起こす性質があり、その結果、細胞膜が収縮し、細胞膜上にソリトンの伝達が起こる可能性があるという感じで、これに熱の発生・吸収が伴うらしいです。

今回の論文

で、今回の論文はじゃあ、活動電位がソリトンだったら行き違った活動電位は消えずにすれ違うよね?ホジキンハクスレーだとリフラクトリーピリオドがあるので活動電位が通った後の細胞膜は不活性になっているので、活動電位がすれ違おうとするとお互いに相殺するはずだよね?と予想し、実際に測定してみたという内容。

Soliton_model_of_ac

こちらの図がソリトンモデルが予想する伝達の様子。

実験の結果、予想通りにみごとにすれ違いが起こって、何事も無かったように活動電位がそのまま伝達されていくのでソリトンの勝ちという話。

ディスカッション

ふーむ、まずRefractory periodってせいぜい1-2 msじゃないのだろうか。逆方向からのスパイクを消せるくらいの効果が本当に期待できるのだろうか。

そもそも相殺しないとホジキンハクスレーがほんとに否定されるのだろうか。

これロブスターの体節を走るぶっとい軸索神経でやったみたいだけど、ミエリンがあるような普通の神経でも同様なことが起こるのだろうか。

アクソンヒロックあたりの活動電位の開始部でも同じことが起こるならまだ信憑性が出てくるけど、軸索だと普通はそっから活動電位は発生しないので、Refractory Periodの話とあまり結びつかないんだけどな。

chain melting transitionsの話も、大体100m/sで伝達するような活動電位を考えた時には細胞膜が1nmくらい収縮すると予想され、上記の位相転換が起こったときの収縮予想とよくあっているらしいけど、それだとこれはミエリンがある軸索での伝達速度は説明できるけど、無脊椎動物とかのミエリンなしの場合の遅い伝達速度を説明するのに困っちゃうと思うんだけど。

ソリトンだとそもそもミエリンで絶縁する意味が非常に薄まる気がするんだけど、ならなぜ一生懸命絶縁するのだろう。

つーか、水生動物のほとんどは変温動物で、体温は水温より1度くらい高いくらいだ。人間でも風邪引くと体温結構変わる。温度によって活動電位の速度が大きく変わったり、伝達しなくなったり、いろいろと問題ありそう。

この元論文もPNASに乗ったとはいえ、PNASはまともな論文といい加減な論文が混在するので油断できない。残念ながらやっぱりとんでも系の論文に見える。

物理畑の人が生物学の問題について書く典型的な論文だなこれ。壮大な風呂敷を広げて、真ん中に大穴が開いている系。

数式とか、沢山あって、レフリーが生物学者だと「おお、なんかわからんけど数式が凄いからOK。」と思い、物理系のレフリーだと「生物学な問題はわからんけど数式はあっているからOK。」とかいって論文を通してしまうんだろう。

NEURONとかでちょこちょこっとモデルして、ホジキンハクスレーのままでいいじゃんというストーリーで反証するような論文かいてみたら面白そうかなと思った。でもそれをPhysical Review Xに投稿するとたぶん論文はあっさり通ってしまって、1500ドルを著者が払うことになって出版社の思う壺だな。この約15万円も元をたどれば税金ですよ。eLifeという出版費用がタダなオープンアクセスジャーナルもある見たいなので、こっちで反論すべしだな。

まあ、気になった方は元論文を読んでみると面白いと思います。オープンアクセスなので自由に読めます。

おまけ

2007.6.14のWired.jpの記事新説:神経の情報伝達は、電気ではなく「波」というのを見つけました。

面白いのは著者のこの発言:

とはいえ、JacksonとHeimburgの両氏は、新説が間違っている可能性が高いことも認めている。ただし、検証の価値はあると考えている。 「われわれは間違っているかもしれないが、正気を失ったわけではない」とJackson氏は語った。

2007年から温めたアイデアを2014年に実験で実証しようとした執念はすごい。しかし、ほんとにこれで証明できているのかもっとよく考えてほしい。

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